3章

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 母は私が仕事の間、本当に良く赤子の面倒を見てくれた。そしてとても赤子を可愛がってくれた。これが母性本能というやつなのだろうか。それとも実際、母の孫に当たるはずの私の子どもに対して、人間としての本能的な愛が働いたのだろうか。どちらにせよ、私は母にとても感謝していたし、これが母に改めて尊敬の念を抱くきっかけとなった。  しかしその母とも、私の子どもを母に預けるようになってから一カ月過ぎ、私は赤子のことで言い争いをしてしまった。友人から赤子を一カ月以上も預かっている私に、母は私が述べた理由に偽りが隠されているという、懸念を含む疑いを持った。母の言い分は正しかった。私は幾らか適当な言い訳をしたが、母は私の言い分を不審に思い、入院している友人に会わせてくれと言い出した。私はこの発言を恐れて、赤子を胸に抱きかかえ、気が狂った旦那から子どもを連れて逃げる女のように、一刻を争うと言わんばかりに、素早く母のもとを離れて車に乗り込んだ。先ほどの文章を訂正するが、この時の私に子どもを守ろうだなんて気はさらさらなかった。だって私には、子を育てる雌犬ですら持っている母性本能というやつが皆目ないのだから。  私は家に帰り、これからどうするべきかを考えた。そして私の出した答えが、アルバイトを辞めてしまって、こいつが一人で家にいても大丈夫なときまで、自分の持っている預金が続く限り、家を空けないでおこうという考えだった。  私が胸に不安を溜め込みすぎて、体重が一グラムほど増加しているかもしれないというときに、私が先ほど床に放った赤子を見つめれば、何故か赤子はニヤニヤと笑っていた。 私は人生最大の不幸の元凶がニヤニヤとしているのに対して、言葉にできないほどの憎しみを感じた。こいつさえいなければ……こいつさえいなければ!
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