3章

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 前の職場を鬱病で退職して、アルバイトをしながら預金の続く限り、自分の人生の転機になるような、自分の心に刺激を与える新しい発見のきっかけを、ずっと待ち続けていた。だというのに、どうして私はまた、このような不幸にぶち当たってしまったのだろうか。そして私の子どもはそのような私を見て笑っている。このとき、私は自分の人生に嫌気がさして、その人生を歩む運命から逃れることのできない自分を情けなく思い、情けない自分に嫌気がさした。そしてその私が嫌悪する対象が生み出した新しい命に、身体は小さくてもその存在は計り知れないほど大きな命に私は叫んだ。「何がおもしろい!お前のせいで!お前のせいで!」私は大声で怒鳴った。目の前の赤子は私の大声を聞いて、呑気に肘を伸ばして両手を上げていた。私は間抜けに開いている赤子の手の平を見て、何故か余計にイライライラとして、「死ね!」と親が子に言ってはいけない一言を叫んでしまった。  私はこの時、誰かに殺して欲しいと思うくらいの自己嫌悪に陥った。そして心の中で、いつの日か母と幼い自分を捨てた父が、今の私と重なった。私と母を捨て他の女性と一緒になった私の父は、きっと父親として失格なのだろう。だが、私はあの父と変わらないことをしている。放棄という、どれ程の理由があろうとも、親が子に絶対にしてはいけないことを私は、自分の父親同様に我が子に対してしてしまっていた。そして父の子は私であり、私の子は目の前の赤子であり、三人には切りたくても切れない鎖のようなものが繋がっている。蛙の子は蛙……私は心の中でそう呟いて、真っ暗で動物的な視力では見ることのできない、明日からの毎日を、漠然とする不安と化して目の前に広がる重圧を、眺めていた。
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