5章

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 私の精神は欠落しているのだろうか。それとも私の我が子に対する思いやりの無さは、心の病だとでもいうのだろうか。どうして私はこれ程にも自分の子どもに対して、一つの愛嬌も示せないのだろう。烏がゴミ袋を漁るかのように、私は自分の気持ちを確かめてみた。けれど私の小さな嘴では、何も大事なものを引き抜くことができない。そして私が考え事をしていたら、不意に赤子が、「クー。」と声を出した。私はいじめられっ子を傍観するような気持ちで、親に愛されることを知らない可哀そうな我が子を見つめた。  赤子と出会ってから三ヶ月、秋本さんと出会ってから二か月、私は彼女との親交を確実に深めていた。それと引き換えにいくら自分の子どもに睡眠薬を飲ませたことだろうか。しかしその甲斐もあって、私は彼女と遊びに行くようになって二カ月で、彼女から男女の交際を望む告白をされた。  七月初旬の夕方の帰り道、運転をしている私の隣の助手席で、彼女は私に告白をした。  私は彼女が私に異性としての興味を持ってくれていることに、薄々と気づいていたし、私も実際彼女のことが好きだった。だから秋本さんに告白をされたとき、私は嬉しかった。しかし私は彼女に告白の返事を待ってくれるようにと頼んだ。私は自分でも、そうしたことが意外だった。私も彼女同様に、秋本さんのことが好きだったし、彼女との友達以上の関係を望んでいた。けれど、何故か、彼女と恋人の関係になることに、私は彼女に告白された後に生じた静けさの刹那、無意識に反射的な抵抗をしてしまっていた。
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