一章

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 日々、思い当たる節のない悲しみに心を蝕まれて、私はおもしろみのない生活と同様に自分の存在すらも毛嫌いするようになっていた。何をやっても寂寞とした心は乾燥していて、何の興味も、私の胸底の枯れた土俵に潤いを与えることがなかった。私は毎日を義務のように生きて、ただ、起床してから就寝する間の時間を私はロボットみたく機械的に、しかし身体の内には憂鬱と倦怠感をどんよりと充満させて過ごしていた。  そのような日常の中、突如、余りにも不可解で奇怪を超越した、いっそユーモアともとれるかもしれない事件が起こった。  私は小さなアパートに一人暮らしをしていて、去年辞職した仕事で貯めてきた預金と、今のアルバイトの給料で生活費を払っていた。私が定職を辞職してアルバイトの身になった原因は、前の会社内の複雑な人間関係による鬱病だった。アルバイトの身の私には多くの収入があるわけではないが、日頃から遊びにいくこともなければ趣味もない私には、家賃と一日一食の食費以外に支出という支出はあまりなく、前の職で溜め込んだ預金が思いの外に残っていた。
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