2章

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 私がどうして新生児の用品が並べてある場にいるのか。私は言葉にしようのない不幸に今、私の日常を食い荒らされていた。今、私の家で寝ているだろう赤子の顔を思い返せば、やはりあれは人の腸を食い荒らす、寄生虫に劣ることのない気色悪さだ。あれが本当に私の子だというのだろうか。私の容姿だって、あれ程には醜くないはずだ。ではあの容姿はあの老人の遺伝子なのだろうか。私はそれを考えた途端、心底気持ち悪くなった。あれが私とあの老人の子どもだということは、私とあの老人の生殖行為は、何時何処でどのような形で行われたのだろうか。それを考えれば、ミミズが喉の中で暴れているかのような、激しい吐き気が私を襲った。  デパートから帰宅すれば、赤子は泣いていた。腹でも空かしたのだろうか。私は赤子の泣き声を、部屋で飛び回る蠅の羽音を聞くような、あの鬱陶しい思いで聞いていた。  私は初めに新生児用の、テープタイプのオムツを付けてやることにした。床は小便のせいで水浸しになっていたので、赤子を持ち上げて、その場から濡れていない床にずらした。相変わらず尻には大便がへばりついていたので、それを煩わしく思いながら見て見ぬ振りをする。また、赤子の太腿が小便で少し濡れていたが、私はそれも無視をしてオムツを付けてやった。この作業は生まれて初めてだから、自分が母にしてもらったのを思い出せるわけもなく、ほとんど自分の感覚に任せて行った。それでも案外上手くいくものだなと、どうでもいい感心をした。そして適当に選んで買ってきた服を着せる。ピンクの肌が白い百合色の服に隠れた。  小便に汚れた床を、指先まで嫌悪と憎悪でピリピリさせながら、雑巾で一拭きして綺麗にしたら、私は台所で手と雑巾を洗い、携帯を片手にミルクを作ってやることにした。別に理不尽な子育てに反発して、育児を投げ出してしまっても構わなかった。けれど赤子を餓死させてしまって、ネグレイトの疑いで児童虐待の加害者として、警察のお世話になるのだけはごめんだ。私は私の子であるらしい赤子を連れてきた、乞食のような容姿をした老人を非常に恨んだ。私の生きてきた中で、これ程の厄介ごとを私に押し付けてきたのは、あの老人が初めてに違いない。
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