2章

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 しっかりと温度を冷ましたミルクが入った哺乳瓶を、私は利き手の右手に持って、赤子の口元に近づけた。赤子の分厚い海鼠のような唇が、哺乳瓶の乳首をむにゅっと吸い付こうとしたのを見て、私は思わずビクッとして、手に持つ哺乳瓶を赤子の唇から離してしまった。そして私は我に返って赤子の唇に再び乳首を埋めてやった。  私はインターネットで得た情報を頼りに、この動作を三時間ごとにした。何度か、面倒くさいので、別に死ぬことはないだろうと思って赤子にミルクをやらずにいたら、赤子がガンガンと泣き出すので、私は仕方なくその度にミルクを作ってやった。しかし私の就寝時でさえ、ずっと眠っていたはずの赤子は三時間毎に目を覚まして、ミルクを求めるために泣き叫ぶものだから、私はこの日、全く寝ることができなかった。私は普段でさえぐっすりと眠れない睡眠の質だったので、このときは非常に参ってしまった。そして私は、赤子の夜泣きに起こされてミルクを作る度に、沸騰させたお湯をこの赤子の顔面にぶっかけてやろうかと思う程に苛立ちを覚えた。その時初めて私は気づいたのだけれど、私はどうやら自分の子を愛せない性質らしい。この目の前の赤子は、いくら理解し難い形で目の前に現れた子であったとしても、老人曰く私の子であるのに違いはないはずだ。だが、私はこの哀れな赤子を全くもって大切に思っていない。いくら不細工な赤子であったとしても、この赤子が自分の子であることに変わりはないのに、どうしも私は、自分の子どもを可愛いとは思えなかった。  私は赤子にミルクをやりながら、私が赤子を愛せない理由について考えていた。常人ならば、いくら我が子の容姿が醜いからといって、自分の子を忌み嫌う訳がないだろう。それに容貌の悪い子の親だなんて、日本中だけでも巨万といるはずだ。それなのに一体どうして私は、自分の子を愛せないのだろうか。そして私が考え導き出した答えが、それが私の精神の、病的な凶悪さのためだということだった。
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