4章

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4章

 赤子を預かってから最初の頃は、私は太陽が消滅しても終わることのない三時間毎のミルクの時間に困っていたが、アルバイトを辞めてからは、夜に二度、三度泣いて起こされようが、朝になろうといつまでも眠れるわけだったし、私はアルバイトを辞めてから精神的に少し楽になったかもしれなかった。  私が仕事を辞めてから数日後、もう桜の花は全て散っただろう五月の始め、急に現れたつむじ風のように、私に訪れた春は私の胸底の土埃を小さな風で舞い上げた。  秋本沙耶さんという、私がアルバイト先でお世話になっていた先輩が。私に連絡をくれたのだ。急に私がアルバイトを辞めてしまったので心配してくれたらしい。ここで今更だが年齢の話をするが、私は二十三の歳で、彼女は二十七の歳だ。彼女は私の働いていた職場の正社員で確か何とかという役職を与えられていた。私は秋本さんが私に連絡をくれたのがきっかけで、私と秋本さんは一緒に出掛ける約束までする程に仲良くなっていった。  そうなると私がやはり気がかりとしていたのは、赤子が私の恋路の一番の障壁、邪魔な存在になるのではないかということだった。  私は働いていたときから、秋本さんのことを美人だと思っていたし、実際彼女は美人だった。私はもう彼女に彼氏がいるものかと思っていたくらいだ。いつも彼女の両胸を隠している真っ黒の長髪は、お嬢様が持っているような清楚な雰囲気を醸し出していた。しかしその雰囲気とは反して、明るい性格でよく笑うところがまた、外見と人柄とに意外なギャップを作っていて、それがまた、彼女に一つの魅力を与えていた。肌は黄色が余り混じっておらず白っぽくて、私の肌なんかとは比べてはいけない程に綺麗だった。顔も小顔で、一つ一つの顔のパーツが整っていて、ニキビなどというものはどこにも見当たらず、目だけがクリクリとして大きく、綺麗な両目が顔のパーツの中で際立ち、真っ黒な瞳の色が印象に残る女性だった。
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