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そもそもこんな相談に乗るのも気が進まないのだ。
自力で思いつかないなら置いておけばいいのに。
「もう大人しく貯蓄しとけ。せせこましいお前にはお似合いだ」
「せせこましい……ですか……」
がくっと肩を落とす武智。あれ、そんなに酷い事言ったかな。
「なんだ、随分と衝撃を受けてからに」
「いやぁ、やっぱり僕、小さい人間なんですかねぇ」
「おいおい、真に受けるなよ。冗談だ」
「いえ、いいんです。同じことを年末にも言われてますから」
「誰から?」
「彼女からです」
は? ん?
「お前、彼女とかいたの?」
「ええ、もう五年ぐらいでしたかね」
「そんな話聞いてないけど」
「だって、言ってないですもん」
「なんで?」
「そりゃ、全力で下世話な話聞きだそうとするでしょ?」
「そりゃするけど」
「だからです」
なるほど。こればっかりは納得せざるを得ない。
……待てよ。だとするとおかしいぞ。
「じゃあさっき何で旅行する相手がいないとか言ったの?」
「……たからです……」
「ん? 何だって?」
突然ぼそぼそした声になるんじゃないよ。
「だから……れたんですってば」
「あん? 大声で言え。大声で」
「フラれたんですっ!!」
「うるせぇっ!!」
「大声で言えっていうから」
「だからって耳元で怒鳴るやつがあるか」
ああ、耳がキーンってする。聴力下がったら絶対こいつのせいだ。
「年末にちょっとした事でケンカになりましてね。その時に言われたんですよ。前々から思ってたけど、みみっちいって」
「みみっちいの?」
「なんか、そうらしいです」
「そうなんだ。おめでとう」
「何がめでたいんですか?」
うわ、怖い顔。
そして俺も間違えた。今のは心の声だ。
「残念だったなって言ったんだよ」
「そんな堂々とした嘘、あります? 文字数すらあってないですよ」
確かに。てへぺろ。
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