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「え?」
思わず言ってから、真季と三好はお互い顔を見合わせた。そしてなんとなく、お互い目を反らす。
「本当は明日までだったんだがお前ら頑張ってたからな。特別大サービスだ」
山野が得意気に言う。
「その分今日は難しいぞ。まあしっかりやれよ」
真季はそれをぼんやり聞きながら考えていた。
(今日で終わりかー…)
初日を思い出す。暑くてやる気が出なくて、早く終われとしか思っていなかった。なのに、どうして少し寂しく思ってしまうのだろう。
窓から突然現れた三好。学校にあんまり来なくて、話したことすらなかったクラスメイト。謎めいていて、それでも本当は優しいことを知った。
(…補習が終われば、また疎遠になっちゃうんだろうな)
何故だか胸が痛む。
いつもやる気がなくて、適当に流されていた自分のそんな感情に真季は戸惑っていた。
山野が去ると、真季はくるりと三好の方を向いた。
「今日は私めっちゃ頑張るから!」
三好が目を丸くする。ふいに初日の姿を思いだした。たった数日前のことなのに、懐かしく感じる。
「…まあ期待しないでおく」
ぼそっとそう呟くと、三好は素早く問題を解き始めた。真季もそれに倣い、プリントに専念する。
シャーペンの音がカリカリと響く教室。グラウンドのにぎやかさとは正反対の、ある意味隔絶されたような空間に2人。
真季は必死に問題を解きながらも、この不思議な雰囲気を忘れたくないと思った。
最後のプリントを終えた2人は、学校の最寄り駅から電車に乗っていた。
海岸のある駅までは5駅。ぽつぽつと会話はしたものの、車窓を眺める三好の目はどこか遠くを見ているようで、心ここにあらずといった様子だった。そして時々、話しかけている真季をじっと見た。
小さな無人駅で降りると、三好は迷わず駐輪場へ向かった。そして自転車の鍵を外すと荷台を指差した。
「えっと?」
「乗れ」
意味が分からず問いかけた真季に三好は短く告げた。そしていつかとは逆に、真季のカバンをパッと取り上げて自転車の前カゴに入れた。
「…失礼します」
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