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戸惑いながらも、真季は素直に荷台に座った。…縦に。
「普通横座りじゃね」
「えっ、普通とか知らないよ。乗ったことないし」
三好の指摘に真季は頬を赤らめて反論した。三好はそんな真季を見て一瞬呆れたようにため息をついたが、ふいにふっと微笑んだ。鋭い目が少し、優しく細められる。
その途端、真季は自分の心拍数が跳ね上がったのを感じた。―…初めて笑った。
「じゃあちゃんと掴まっとけよ」
「お、お願いします」
掴まるってどこに?と思ったが、思ったよりも揺れる荷台に驚いて真季は咄嗟に三好のワイシャツを握りしめた。
照りつける日差しの中をゆるゆると走る。弱い風が真季と三好の髪をなびかせた。
微かに潮の香りが混じり始めた頃、三好がぽつりと呟いた。
「…逢沢はなんで補習引っ掛かったんだ」
「あー…」
真季は天を仰いだ。抜けるように青い空と、真っ白い雲。
「…笑わないでね?」
爽やかな夏の日に話すには、あまりふさわさくない気がして真季は前置きをした。
「なんか突然、わかんなくなっちゃって」
「…」
真季は小さくため息をついた。
「特にやりたいことも目標とかもないし。なんかそう思ったら、どうでもよくなっちゃって」
三好は何も答えなかった。しかし、話を聞いてくれている様子は伝わってきた。白いワイシャツの背中が眩しくて、目に染みる。
「考えるのもめんどくさくなっちゃって。なんとなーく過ごしてたら、ちょっとヤバイ点取っちゃって」
真季は補習の初日を思い返していた。ただぼーっと空を眺めて、何にも考えたくなかったあの日。
どんなことにも興味が湧かなくて、ただ時間が過ぎるのをじっと待っていた。
――それが、どうしてこうなったのか。
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