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真季は視線を三好の後頭部に移した。色素が薄くてサラリとした、柔らかそうな髪だ。
「まあだから別に、大した理由とかないんだよね」
ワイシャツを握る手に、微かに力がこもる。
「こんなんに勉強教えてくれてありがとね、三好くん」
「…いや」
小さな呟きが聞こえた。真季は思わず背中に近づいて、耳を澄ませる。
「…なんとなくだけど、分かる気がする」
真季は息を呑んだ。…こんな、訳の分からないことを言ったのに。
再び頬が熱を持つのを感じた。更に強くワイシャツを握りしめる。
「――着いた」
ふいに視界が開け、目の前に青い海原が広がった。日光の光を受けて反射する水面が眩しすぎて思わず一瞬目を閉じる。
「…こんな近くにあったんだ」
自転車を停めると、三好は「こっち」とだけ言って歩き始めた。コンクリート製の堤防の上を、一列にに並んで歩く。
たった数日前までは、顔すらぼんやりしていた。それが今は至近距離で、2人きりで歩いている。広いけれど華奢な背中は、手を伸ばせば届きそうだ。
ぽつりと三好の声が聞こえてきた。
「俺も逢沢と同じようなものかもしれない」
「どういうこと?」
「…」
おもむろに三好が立ち止まり、海に向かって腰を下ろした。真季は少し迷ったあと、その隣に座る。
「…海に来るのも学校に行かないのも、特に意味なんてないから」
ゆらめく水面を眺めていた真季は、その言葉に顔を上げる。三好の方を向くと、あの鋭い目がこちらをじっと見ていた。
少しの間、2人は視線をそらさなかった。波の音が遠くに聞こえる。
そこに、少し風が吹いた。真季は海の方をもう一度見て、ふと1つに縛っていた髪のゴムを外す。
セミロングの髪が、風に吹かれて広がる。
「…いつか、もっとちゃんとしておけばよかったって、後悔するのかな…」
思わず呟く。暑くて仕方ないはずなのに、今は潮風が心地よい。
「…どっちにしても後悔するだろ。やっても、やらなくても」
三好の何気ない言葉が、どうしてか今の真季には響く。
「私たちもしかして似た者同士なのかもね?」
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