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へへへ、と真季は軽く笑った。一緒にするなと言われるかと思いきや、意外にも三好は
「ああ」
と、小さく答えた。思いがけない返しに、真季の心は微かに震える。それと同時に、こんなに小さなことを嬉しく思う自分に、戸惑ってもいた。…それでも。
ずっとこうしていられたらいいのに。
「…ねえ、三好くん」
三好がゆるゆるとこちらを向く。真季はこっそり深呼吸をした。
「――私は、三好くんが学校来てくれたら、嬉しいかな」
三好は目を丸くした。淡い色の光彩に、真季は思わず見とれてしまう。
「三好くんと仲良くなりたい子結構いると思うよ?」
「興味がない」
なんとなく気恥ずかしくなって茶化した真季に、三好はズバッと言い切った。しかし…
「…まあ考えとく」
(あっ)
顔をそむけた三好の頬が…ほんのり赤いような気がする。気のせいかもしれないけれども。
今日のこの日を、私は忘れないだろう。
真季はそんな三好越しに海を見ながら、強くそう思った。
来た道を今度は2人並んで帰る。一昨日とは違い、今度は三好が自転車を押し、真季はその横を歩いていた。
真季は自分より頭ひとつぶん大きい三好の顔を見上げる。全体的にどこか儚げな雰囲気なのは、髪色のせいだろうか。
「三好くんの髪ってさ、」
「ずっと言おうと思ってたかど、同じクラスなんだから三好でいい」
真季は思わずどぎまぎしてしまった。何故かは分からないけれど。
「み、三好」
「何」
緊張しながら、なんとか呼んでみる。返事をする態度は素っ気なくて、いつのまにかいつもの三好に戻っていた。
「その髪色って地毛?」
「地毛だけど。なんで?」
「…いや、すっごい綺麗だなーって思って」
じーっと真季が見つめると、三好は眉をしかめて目をそらした。
「ばあちゃんもこんな色だったらしいし家系じゃない」
へえーっと真季は間抜けな相槌を打った。…そんなことを言っているうちに、いつのまにか駅に着いていた。
「今日ほんとにありがとう。…あの、」
「逢沢」
改札前で立ち止まると、二人は真っ直ぐに向き合った。
「…じゃ、また」
三好の言葉に、真季は目を見開いた。
また。
たったそれだけの言葉。それでも、真季は泣き出しそうだった。
「…またね、三好」
真季は精一杯の笑顔を浮かべて手を振ると、三好の背中が見えなくなるまで、ずっと改札内で見つめ続けた。
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