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強い日差しが差し込む午前中の教室は、どこか気怠げな空気で満ちていた。
(空青いなー…)
外から聞こえてくる部活動のかけ声をぼんやり聞きながら、真季(まき)は今日何十回目かのあくびを噛み殺した。
8月上旬。世間の学生達は皆、思い思いの場所でそれぞれの夏休みを満喫しているであろう季節。
そんな日に彼女は一人、教室でプリントを解いていた。
(せめてクーラーがついてればなあ)
貧乏な田舎の公立高校であることをちょっぴり恨みつつ、数式の書かれたプリントに目を落とす。―まだ半分も終わっていない。
貴重な高2の夏休みに何やってるんだろ。自業自得とはいえ、やる気が全く出ないまま、真季は朝の担当教師との会話を思い出していた。
「えー…私1人ですか?」
暑い中30分も自転車をこいでやって来た彼女に、教師は非常な事実を告げた。
「いや、本当は2人なんだが。もう1人はあの三好だからな」
「ああ…」
『あの』と言われて納得してしまうほど、三好陸(みよしりく)の名前は有名だった。
同じクラスではあるものの、席も離れている真季とは一切接点がない。正直、顔もぼんやりと思い出せるかどうかといったところだ。それでも彼の存在は、ちょっと特異だった。
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