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のどかな田舎町の高校にそぐわないスラリとした長身で、色素の薄い髪。目つきが鋭くいつも無口で、誰かと話している姿を見るのは極めて稀だった。
そして彼の出席率の悪さは学年全体でもワースト。よくわからない時間にフラッと現れては、フラッと帰っていく。彼について詳しい生徒は1人もいなかった。
…彼なら、まあ来ないだろう。
「それにしても逢沢、お前どうしたんだ最近。来年には受験なんだぞ」
真季がぼんやりとそんなことを考えていると、教師が困惑したように声を掛けてきた。
「―…頑張ります」
ふいに大きなチャイムの音が鳴り響き、真季はハッと顔を上げた。
時計の針はずいぶんと進み、もう正午近くを指している。
教師には12時までに職員室に提出するように言われていた。
解けていない問題はたくさんあるが、ここは潔く諦めて提出しよう。どうせ明日もあるんだし…。
真季が何気なく窓の外に目をやった、その時だった。
こちらをじっと見る鋭い目。色素の薄い、特徴的なそれと、バッチリ目が合った。
「―えっ?」
何事?何で窓の外に?
窓を遮るように植えられている桜の木と窓の間に立っているのは―…。
真季が驚きのあまり瞬きを繰り返していると、急に視線をそらされた。
そのまま踵を返して去ろうとする背中を一瞬見つめ、我に返った真季は半信半疑のまま呼び止めた。
「あっ!えっと…三好、くん?」
すると彼の足が止まり、これは現実なのだと確信する。真季は急いで教壇まで駆け寄り、プリントを手にして窓辺に戻った。
「これ、三好くんの分。…めんどくさいとは思うけど、どうぞ」
三好はしばらく差し出されたプリントをじっと見ていたが、意外にも素直に受け取った。そして小さく
「―ども」
とだけ言うと、今度こそくるりと背を向け、裏門の方向へと消えていった。
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