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「そりゃ、一応同じクラスだし」
あと目立つし。というのは真季の心の中にとどめておいた。万が一のため。
「とりあえず教室入ればいいのに。外暑そうだし」
真季がそう言ってヒラヒラと手招きをすると、三好はまた目を丸くした。
―案外、感情が表情に出るタイプなのかもしれない。
「名前は」
「名前?」
「クラスメイトなんだろ」
ああ、と真季は納得した。彼はクラスメイトの名前なんて覚えてなさそうだ。
「逢沢だよ。補習私達だけっぽいし、よろしく」
三好はまたふぅん、とだけ言うと、真季に背を向けて消えてしまった。
(あー…プリント渡しそびれた)
三好の分のプリントを手にして立ち尽くしていると、教室の扉が開く音がした。反射的にそちらを向いた真季は目を疑う。
「三好くん」
そこには、高い位置から真季を見下ろす三好の姿があった。そして真季の手からおもむろにプリントを受け取ると、教室中央の席に腰を下ろした。
(…どういう風の吹き回しなんだろ)
1つ席を挟んで隣に座った三好を横目で見ながら、真季はこのよくわからない状況について考えていた。山野の愚痴が減ることを思えば喜ばしいのだが、何だか落ち着かない。
「―何?」
ふいに三好があの鋭い目線をこちらに向けてきた。―近くで見るとますます、髪も瞳も色素が薄い。
「いや、解くの速いから数学得意なのかなーって」
真季は咄嗟にそう答えたが、それも嘘ではなかった。彼は意外にも答えをスラスラと埋めていたのだ。
すると三好は少し変な顔をした。…何か癪に触ったのだろうか。しかし、
「別に、普通だろ」
ぼそっと答えが返ってきてホッとする。一方で真季は羨ましく思った。授業にあまり出ていないのにこんなに解けるなんて。
「三好くんて」
「やってるか逢沢―…と三好?!」
真季の質問に被せるように、山野が教室に入ってきた。そして三好の姿を目にし、大きな声を上げる。
「お前来たのか、昨日はどうした?」
すると三好はその問いに答えず、無言で教壇にプリントを置いた。そしてそのままあっという間に教室を出ていってしまった。
おい待て三好!という山野の声を遠くに聞きながら、真季は呆気に取られていた。
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