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目の前で爽やかに笑う人物を見て、私は思わず立ち上がった。なんで──!? なぜここに、明石のおにいちゃんが!? いきなり立ちあがった私を、周りが不可思議そうに見上げる。体育館の床に座った、クラスメイトの三十人。
「どうかしたの? ふみ」
友人のはるかちゃんが尋ねてくる。
「え、あ……な、なんでもない」
よろよろ座り込んだ私に、明石のおにいちゃんが目を向ける。彼は、私を認識するなり、一瞬悪魔みたいな顔になった。ひい。おにいちゃんは一瞬にして悪魔から爽やか青年に戻り、
「久しぶりだな、川内!」
私にそう声をかける。
「先生ー、川内さんと知り合いですか?」
「ああ、昔家が近所でなあ」
へー、そうなんだ。幼馴染ってやつ? 周りから声が聞こえてくる。いや、違う。そんないいものじゃない。言ってみれば、私はおにいちゃんのパシリだった。
「うらやましいなー、ふみ」
友人のはるかちゃんが羨望の眼差しを向けてくる。他の女子たちもリアクションは似ていて、
「ほんとほんと。あんなかっこいい幼馴染がいるなんて」
「近所にあんなお兄さんいたら、絶対初恋相手だよね」
みんな好き勝手なことを言っている。 たしかに、明石のおにいちゃんは見た目がいい。黒髪はさらさらで、手足が長くて、顔立ちも整っている。見た目だけなら、アイドルみたいだ。だけど心の中が真っ黒で、実は目が笑っていない。私はそれを知っている……。
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