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おにいちゃんの車に乗って、ポツポツと話す。
「一年のとき、初めてあの美術室で会った時に言われたの。絵のモデル、やってくれって。きみ
、かわいいからって」
「チャラいな」
「そう、かな」
「チャラいだろ。普通初対面の女にそんなこと言わねーよ」
「……そうなんだ」
「そんなに言われたきゃ、俺が言ってやるよ。ぷにちゃんはかわいいでちゅねー」
「おにいちゃんはふざけるからやだ」
「だから、ふざけないでかわいいとか言う奴は信用ならないって」
「好きな子には、言うんでしょ」
「まあな」
おにいちゃんの好きな子。おにいちゃんの彼女。どんなひとだったんだろう。
おにいちゃんは、私の自宅前に車を止めた。出て来た母親は、おにいちゃんを見て面食らった。
「まあ、昴くん!? 久しぶりねえ。立派になって」
「お久しぶりです。ふみさんが具合悪そうだったので、送らせていただきました」
おにいちゃんが、爽やか青年モードで言う。何度見ても感心する。この切り替えって、どうやってやるんだろ。
母親が、気遣わしげにこっちを見た。
「大丈夫? ふみ」
「大丈夫、ちょっと、目眩がしただけ」
母親はしきりにお礼を言い、おにいちゃんをお茶に誘った。
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