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「浮かべてもいないくせに。ったく、カメのくせに泳げないとか」
その言い草にむっとした。
「カメじゃないもん」
「悔しかったら泳げるようになれよ」
「先生~クロールのタイム測ってー!」
女の子たちの声がする。
「とりあえず浮く練習しとけ」
呼ばれたおにいちゃんは、女の子たちの方へ向かう。いつもの爽やかスマイルを振りまいていた。他の子には、優しいんだから。私はまたむっとして、再びバタ足を始めた。
練習を終えて更衣室に向かうと、友人たちの声が聞こえてきた。
「ねー、川内さんってさあ、明石先生に馴れ馴れしくない?」
井岡さんの声だ。たしか、はるかちゃんと家が近いんだったな。というか、自分の話をされていると、中に入りにくい。
「確かに。幼馴染だかなんだか知らないけど、ちょっと甘えすぎだよね」
「はるかもそう思うよね」
「まあね」
はるかちゃん……? 私が中に入ると、ぴたりと会話がやむ。
「あ、お疲れ様……」
「行こー」
友人たちが更衣室を出て行く。はるかちゃんも、こちらを見ずに歩いて行った。私は一人で着替えた。
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