せん/せい/と/ぷ/に/ちゃん

23/38
前へ
/38ページ
次へ
「浮かべてもいないくせに。ったく、カメのくせに泳げないとか」  その言い草にむっとした。 「カメじゃないもん」 「悔しかったら泳げるようになれよ」 「先生~クロールのタイム測ってー!」  女の子たちの声がする。 「とりあえず浮く練習しとけ」  呼ばれたおにいちゃんは、女の子たちの方へ向かう。いつもの爽やかスマイルを振りまいていた。他の子には、優しいんだから。私はまたむっとして、再びバタ足を始めた。  練習を終えて更衣室に向かうと、友人たちの声が聞こえてきた。 「ねー、川内さんってさあ、明石先生に馴れ馴れしくない?」  井岡さんの声だ。たしか、はるかちゃんと家が近いんだったな。というか、自分の話をされていると、中に入りにくい。 「確かに。幼馴染だかなんだか知らないけど、ちょっと甘えすぎだよね」 「はるかもそう思うよね」 「まあね」  はるかちゃん……? 私が中に入ると、ぴたりと会話がやむ。 「あ、お疲れ様……」 「行こー」  友人たちが更衣室を出て行く。はるかちゃんも、こちらを見ずに歩いて行った。私は一人で着替えた。     
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

270人が本棚に入れています
本棚に追加