せん/せい/と/ぷ/に/ちゃん

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 プールサイドを出ると、スパン、とボールを跳ね返す音が聞こえた。プールの隣には、テニスコートがある。黄色い球が飛ぶのを眺めていたら、昔、おにいちゃんのラケットを高校に届けたのを思いだした。打ち合いをぼんやり見ていたら、かしゃん、とフェンスが鳴った。振り向くと、おにいちゃんが立っていた。こっちを見下ろし、眼を細める。 「五木先輩とやらがだめだったから、今度はテニス部かよ。節操なし」 「ち、違うもん。見てただけだよ」  あっそう。おにいちゃんは、興味なさげに言った。テニスをしている生徒に目をやり、 「しかし、あいつらヘッタクソだな」 「おにいちゃん、上手だもんね。教えてあげたら?」 「ぜってーいや。残業になるじゃん」  相変わらず体育の先生らしくない。 「おまえの髪、塩素の匂いすんな」  おにいちゃんが、私の髪に顔を近づけた。かしゃん、とフェンスが音を立てる。触れ合ってるわけじゃないのに、ドキドキ、する。多分、ドキドキしてるのは私だけだ。しばらくして、おにいちゃんが口を開いた。 「おまえ、昼休み補習な」 「え」 「え、じゃねーよ。20メートル泳げなかったら成績一だから」 「やだ」  私は青くなった。この学校で一なんか取ったら呼び出しだ。 「泳げたらアイスおごってやる」 「ほんと?」  顔を明るくしたら、おにいちゃんがふ、と笑った。 「アイスにつられるとか、ガキだな」 「ガキじゃないもん」  おにいちゃんは、私の髪をくしゃっとして歩いて行った。私は、おにいちゃんが乱した髪をなおす。 「ガキじゃ、ないもん」     
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