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井岡さんが眉をあげる。
「わざと泳げないふりしてんじゃない?」
「ち、違う」
「なんでもいいから、手すり離して泳ぎなよ。練習にならないよ」
井岡さんは、手すりから私の手を引き剥がそうとした。私は、必死にすがりつく。
井岡さんの手が、伸びて来た手に阻まれた。
「あ、明石先生」
背後に立つおにいちゃんをみて、井岡さんが顔を引きつらせた。
「何してんの?」
おにいちゃんは、いつもの爽やかな風情を捨てていた。目が怖い。テニスの試合で負けた時、よくこんな目をしていた……。雰囲気の違うおにいちゃんに動揺したのか、はるかちゃんたちがオロオロする。
「違うんです。私たち、川内さんが泳げるようにと思って」
「そうそう、助けてあげてたんだよね」
二人の言葉に、おにいちゃんが舌打ちした。
「うるせーんだよブス共」
「はあ!?」
「邪魔だからどけ」
おにいちゃんははるかちゃんたちを押しのけ、私をプールから引き上げた。そのまま身体を抱き上げる。
「ちょっと、今なんて言ったのよ」
「ブスにブスっつって何が悪いんだよ」
はるかちゃんが泣き始めた。井岡さんがかっとなる。
「ひどっ……親に言うからね!」
「好きにしろバーカ」
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