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「今日は挨拶がてら、みんなの実力を見せてもらおうかな」
おにいちゃんがそう言って、みんなに跳び箱を出すように指示した。私が跳び箱の七段目を運んでいたら、おにいちゃんがすっ、と近づいてきた。
「川内、後で話がある」
「へ」
顔をあげたら、笑ってない目と視線が合った。ひいっ。私は思わず、跳び箱を落としかける。
「さー、運べたかな? じゃあ出席番号順に飛んでみよう!」
跳び箱を並べ終えると、おにいちゃんは爽やかな笑顔を取り戻し、笛をピッ、と吹いた。なんだか、嘘くさい体操のおにいさんみたい。みんな列に並び、ぴょんぴょん跳び箱を飛んでいく。私はといえば、三段までしか飛べなかった。おにいちゃんとすれ違う際、はっきりとこう聞こえる。
「どんくせ」
思わず視線をあげたら、おにいちゃんが冷たい目でこちらを見ていた。が、
「はは、川内は跳び箱が苦手なんだなー!」
他の生徒がそばを通ると、作った声で頭をくしゃくしゃかき回される。周りからいいなー、という声が聞こえてきた。よくない。怖い。
授業を終えた私は、素早く更衣室に向かおうとした。が、伸びてきた腕に拘束される。
「おい、なに勝手に帰ろうとしてんだ」
おにいちゃんが低い声で耳元に囁く。ひい。
「ち、ちょっと用事が」
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