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「あ、あれ? 井岡さん、おにいちゃんのこと親御さんに言うって……」
「は? 昨日家まで行って話して、パピコ奢ってやったら機嫌なおったけど」
なにそれ!? アイス奢ってもらうの私のはずなのにずるい……じゃなくて。なんでそんな簡単に?
「つーか謝れよ」
おにいちゃんに言われ、井岡さんが頭を下げた。
「ごめん」
「う、ううん」
井岡さんはまたね、と言って歩いて行った。私はポカンとして、その後ろすがたを見つめる。昨日のはいったい何だったのだろう。
「あいつは単純でいいな。あの春巻きはダメだったわ。ねたんだら忘れないタイプ。完全に陰キャラ」
「春巻きじゃなくて、はるかちゃんだよ」
「まあ、なんかされたら言えよ」
「しないよ、ほんとはいい子なんだ」
「知らねえ。おまえをいじめるやつは全員ぶっつぶす」
私が見つめたら、おにいちゃんが眉を寄せた。
「なんだよ」
「……先生らしくない」
「いいんだよ、おまえに手出した時点で教師失格なんだから」
「やめないでね」
私は、おにいちゃんの服の袖をつかんだ。おにいちゃんは、私の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「泳げるようになったら、海連れてってやる」
「ほんと?」
「ああ」
おにいちゃんは、昔みたいに、悪魔じみた笑みを浮かべた。
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