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おにいちゃんは壁から背を離し、こちらへきた。私はひい、と悲鳴をあげ、壁にへばりついた。ばん、と顔の横に手がつく。
「ガキどもに人のことをベラベラ喋るんじゃねーぞ、ぷに」
おにいちゃんの、無駄にかっこいい顔が近づいてきた。私は顔をそらす。
「ぷにじゃないです。ふみです」
「じゃあブス」
「ぶ……ブスじゃないです。かわいいって、五木先輩は言ってくれたもん」
「は? 五木ひろし?」
「ひろしじゃないっ。とにかく、私は別に、おにいちゃんのこと言いふらす気ないし、関わる気もないから」
私は早口で言い、おにいちゃんの脇を通り抜けようとした。おにいちゃんが肩を抱き寄せてくる。
「ひい」
「なあ、ぷにちゃん。おにいちゃんは苦労して先生になったんだ。わかるよな?」
おにいちゃんが私のほおを突く。
「わ、わかってるよ」
「もし余計なこと話したら、わかってるよな?」
「わかってる……イタイイタイ!」
つつく指が早くなる。そのとき、チャイムが鳴り響いた。
「じゃあ、私は戻るから!」
私はおにいちゃんを押しのけ、扉から飛び出した。
★
明石のおにいちゃんと初めて出会ったのは、小学一年生のときだった。その頃彼は中学一年生で、よく通学路で一緒になった。
「おい、ぷに。おまえまた置いてかれたのかよ」
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