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1.身の程知らず
「おい、お前目つけられたな」
「ん?」
キャルに言われてその目の先をチラッと見た。女が二人。片方の女はキャルをガチ見している。もう一人ははにかんだようにレニーにチラチラと目を向けていた。
「今夜は楽しんで来いよ」
そう言うとキャルは車のキーを取った。
「キャルは? もう一人いるけど」
「俺は女がいいんだ。それにセックスならもう一生分楽しんだ」
「楽しんだのは知ってるけど。女じゃない?」
「あれは女装だ、よく見ろよ。朝ここに来る。食い殺されるなよ」
笑いながらレニーに手を差し出すから財布を渡した。キャルが出て行くのを見て慌てて女装が立つ。脇をすり抜けるところをレニーが腕を掴んだ。
「彼はやめといた方がいい。痛い目にあうだけだ」
「あんたたち、出来てんの!?」
「まさか。今日は彼、機嫌いいんだ。だから放っておいてほしいんだよ」
足止めしたのが良かったらしい。表のエンジン音が聞こえた。女、いや女装は睨んでいるがレニーはもう一人の女性のところへ立って行った。
「ハイ、ここ、空いてる?」
「私が座ってたのよ!」
女装には片手を上げただけで、レニーは相手の目から視線を外さなかった。
「いいわ、ここ出ましょ」
「マール!」
「明日ね、タンク」
二人は肩を並べて店を出た。
「悪かったかな、タンクに」
「ううん、いいの。仕事で一緒にいるだけだから。彼女、幼馴染みなのよ」
「ふーん」
ベッドの軋みが心地良かった。女性なんて久しぶりだ。
――食い殺されるなよ
その言葉にクスリと笑う。自分の上で揺れているマールが上げる叫びを聞くのはこれで3度目。
(ホントだ、食い殺されるかもしれない)
胸に倒れ込んで来たマールの体を反転させて組みしだき、入り直した。なら、こっちが先に食うまでだ。
「シャワー浴びようか」
「すぐ行くから先に行ってて」
充分堪能したという、とろりと夢見心地の顔でマールは答えた。あれこれ聞かない。相手も聞いて来ない。そんなあと腐れの無いセックスが一番いい。
熱いシャワーを浴びながら 遅いな と思った。そっとドアを開ける。マールはレニーのジーンズを探っていた。ふっと笑ってシャワーに戻った。
ゆっくりシャワーを浴びてタオル片手に出た。ベッドに座った彼女が銃を向けている。それを見ながら髪をがしがしと拭いた。少し伸びたせいか、水気を取るのにいつもより何度もタオルを往復させる。
(いつまでも山にいたがるからだよ、キャル。髪、切らなきゃなんない)
「金、無かっただろ」
普通に喋るレニーにマールは明らかに苛立っていた。
「あんたさ、見えないの? これが」
「見えるけど。頭濡れっ放しは好きじゃないし」
尚もタオルが行き来する。
「ふざけないで! どこなのよ、財布!」
「兄貴が持ってる。ここに来る前に取り上げられちゃったからね」
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