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「買い物」
と彼女は答えた。
それにしては手荷物が一切ないその姿にますます違和感を抱く。
「買い物……今からするの?」
不審に思ってしまったことに気づかれないよう取り繕った声を出す。
俺の質問に彼女は再び項垂れ小さな笑い声を漏らす。
「うん……。買い物に来たんだけどね、……ふふっ。なんか……、座ったら動けなくなっちゃって……」
「え、大丈夫なの?清子ちゃんもしかして具合悪い?」
目の前で弱々しく微笑む彼女に戸惑う。確かにメンタルが危うい子だと感じることも多々あったけれど、こんな風に目に見えてふにゃふにゃした子ではなかったはずだ。それにコートの袖口から覗く腕もひどく痩せて見えた。
「具合は……どうなんだろう、自分ではよくわからなくて。でも大丈夫。少し休んでから帰るから」
「だっ、旦那さんは?清子ちゃん結婚したんだろ?迎えに来てもらったほうが良くない?」
半年前の記憶を辿る。彼女は結婚するからと言って俺の前から消えたのだ。
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