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仕事を終えて帰宅すると、リビングの方から珍しくはしゃいだ声が二つ聞こえてきた。
「あっ、りっ君、お父さん帰って来たみたいよ」
「本当だ!!お父さんおかえりー!!」
「うわ、どうしちゃったの?この騒ぎ」
リビングとつながった対面キッチンから流れてくる揚げ油の匂いに驚き覗き込む。
「加藤君おかえりなさい。りっ君のリクエストで今日はエビフライなんだけど」
「油がヤバいぐらい跳ねる!!」
「ほら、りっ君、次入れるよ」
「待って待って、うわあ!!」
ジュワジュワと盛大に音を響かせながら揚げ油の飛沫が上がる。室内に響く笑い声、換気扇の唸る音。
彼女をこの家に連れてきて二週間が経った。最初こそ取り乱していた彼女も次第に落ち着きを取り戻すと、内弁慶で人見知りをするタイプの陸人がいつの間にか、なついていた。
「りっ君、すごく包丁上手で驚いちゃった」
「家庭科で習ったもん。たまにばぁちゃんの手伝いもしてたし」
買い揃えたシリコン製の調理器具も正解だったようだ。プラスチック製のボウルもパン粉にまみれて大活躍している。
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