一話

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そして私は今も、ここにいて見ている。 学校に住み着いてしまったカラスの巣から、担任の指輪が発見されるのを。 冤罪を鵜呑みにした父親が我が子を折檻して死なせ、拘置所で自殺した事件は随分と騒がれたらしく、マスコミや野次馬が付近をうろつき、撮影や質問攻めをしては教師や生徒を困らせていたのを。 ここからも見える屋上から錯乱した担任が飛び降りるのを。 ここにいて、ずっと見ていた。 前と同じように、私の言葉など娘に届くはずもなかった。 担任が飛び降りるのを見届けた後、いつの間にか見たことのない、何処か覚えがある古井戸の前にいた。 井戸を覗き込むと、いつか聞こえたように娘の声が響く。 「次は間違えないでね、パパ」 ああ、次こそは。 そして私は、前と同じように身を投げた。 黄泉へと続く、何れは再びこの世へと至るであろう暗い穴へと。 娘を追って。
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