一話

3/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
三日前の放課後、担任が結婚指輪を教卓に置いたまま、僅かに外に出ていた間に指輪は消えてしまった……。 いじめ防止のためのカメラには指輪の置いてあった場所は死角になっているから盗む瞬間は映っていなかったが、ドア付近の映像から、その間に教室に出入りした人間は娘ひとりだと確定している……。 罪を認めて指輪を返して真摯に謝罪すれば穏便にすませてやると言っているのに開き直って認めない……。 怒りと羞恥でかっと熱くなった頭の中を、担任が経緯を語る声はひどく耳触りに流れていった。 副担任の方は状況証拠だけではまだこの子がやったとは、本人の言い分もちゃんと聞かないとなどと言っていたが、犯行時間の犯行現場にたったひとりの人間しかいなかったことが証明されている以上、下手な慰めか、事なかれ主義にしか聞こえなかった。 私は盗ってない、謝るようなことはしてないという娘が、俯きすらせず顔を真っ直ぐに上げていることすら気に障った。 「こんな問題を起こしておいて、私に恥をかかせておいて、お前は頭を下げて謝ることすらできないのか!!」 そう怒鳴りつけながら、私は娘の頭を掴んで無理矢理に担任へ下げさせると、自分も頭を 下げながら謝罪した。 男手ひとつで育てたから躾が行き届かなくて、と今まで娘に思っていたこととは反対のことを言い訳にすると、担任はかえって図に乗ったように、まったくどんな育て方をしているのかと思いましたよ、親御さんが甘やかすから子供が付け上がって、これだから最近の若い親は、と私のことまで罵りだした。 屈辱のあまりこの歳で人前で涙が出てしまいそうだったが、私はそれを悟られないよう頭を下げたまま、ただ尽きることがないかのような担任の悪口に、その通りです、私が至らなくて、本当に申し訳ございません、と悪口を認めて謝り続けるより他になかった。 窓の外でギャアギャアと五月蠅く鳴くカラスの声までもが、私のことを馬鹿にして嘲笑っているようで苛立たしかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!