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目覚めるとそこは野外階段の踊り場だった。
居酒屋を出てからの記憶は一切ないが、大体の予想はつく。
泥酔して意識もないまま、フラフラと歩いて此処へ来たのだろう。
「あーあ、20社くらい受けてやっと入った会社だったのになぁ…」
昨日、会社に出勤直後退職した。
「再就職なんて無理だし…社員寮に居たから今ホームレスだし…行き場ない…」
普通、退職って何日か前に知らされてるんじゃない?
なんて、そんな事を考えていると、階段の上の扉が開いた。
「アンタ!ミーティングの時間だ!早く来い!」
「はい?」
細身の男性(後に女性と知る)に腕を捕まれ、そのままビルの中に引きずりこまれる。
『お好きなハート、盗みます。
誠実対応、泡沫屋敷』
そんなポスターがあちこちに張ってある。
そして、オレは何故運ばれてる?
「弥生さーん!新入りつれてきましたよー!」
「ありがとう、桜花。」
麗人が、こちらを振り返る。
「おはようございます、剛毅さん。そして、ようこそ、泡沫屋敷へ。
昨日お話した通り、剛毅さんには誘惑のお手伝いをして頂きます。役職は落とし屋助手、と言った所ですかね。宜しいですか?」
「はい?」
この時断るべきだったと、オレは後に後悔する事となる。
俺を睨みつける女子高生とおじさんに気圧されていればと、後悔する。
あいつの最後の言葉を忘れていなければと、後悔する。
「オレの弟を死なせたのは…あなたですね?」
そんなセリフを、大切になったあの人に言うくらいなら。
次第に明らかとなる、住人の真実と嘘、暗殺者の正体。
そして、弟の想い人。
「ほれて…は、れた…の、うた…か、た、や、し……き」
あなたは愛する人を、どこまで信じられますか?
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