お年玉のガーニー

13/14
前へ
/14ページ
次へ
 いよいよ、岡山へ出発する、という日、私は駅まで見送りに行った。  連日のテストで寝不足で、体はだるく、あやうく遅刻しそうになった。  スーツケースを引っ張る怜央の後ろから、入場券で改札をくぐる。 「映画だと、入場券買うシーンなんてほとんどないよね」 「なんとなく、事務的だよな」 「入場券、お金取らなくてもよくない? 別れを惜しむ人から取るとか、ひどくない?」  お互い、ずっと笑いながら喋っていた。 「荷物見ててあげるから、飲み物買ってきなよ」と促すことさえ、した。    発車ベルの直前、 「カブトガニってさ」  と、怜央が前を向いたまま、言った。 「つがいになったら、メスとオスは、死ぬまで離れないんだ」  特急列車の清掃が終わり、ドアが開いた。  同時に、景色が見えなくなるほど、ばあっと涙が溢れた。  顎を伝い、ぼとぼとと、ホームに黒い染みを作る。  嗚咽で何も言えず、プレゼントのタオルを差し出すと、怜央の唇が頬に触れた。  耳も目も、もう何も感知しなかった。体がゆっくりと離れたのが、風の流れでわかった。  ぐにゃぐにゃの視界の片隅、彼はドアの中で手を振った。  買ったばかりの入場券で、改札を出る。待ち合わせ場所のようになっている柱の下に、予期せぬ人が待っていた。 「お姉ちゃん」  こちらに気づくと、小首を傾げ、笑顔を見せる。 「心配しすぎ」  ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、抗議すると、 「だねえ。……さて、強くなるために、パフェでも食べよう」  と背中を叩かれた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加