お年玉のガーニー

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 何日かは、何もやる気が起きず、ガーニーのところへ行くのもさぼってしまった。  台風が近づいている、というニュースが気になり、ようやく自転車を河口に向けたのは、夏休みに入ってからだった。  海の低い所から入道雲が立ち上り、早くも遠雷が轟いていた。  流れる汗を拭きながら、ガーニーの待つ淵へと急ぐ。  食べ物が無くて、死んでしまっていないだろうか。  ぽつぽつと、雨粒が、水面に落ち始める。  ガーニーの気配がない。どこだろう、と岸伝いを目を細めて探す。  そこで、私は変わり果てたガーニーの姿を見つけた。  流れが少し淀んでいる場所。流木と一緒に、白くふやけ、力なく漂っている。 「ガーニー!」  その亡骸を掴むため、水に飛び込もうとしたその時、近くで微かな水音がした。  ガーニーにそっくりなカブトガニが、いつものように、ばしゃばしゃと背泳ぎをしてこちらへやってくる。 「ガーニーが、2匹……」  誰かが、ここに別なカブトガニを放した? いや、違う。 「脱皮、したんだ」  最初に見たのは、抜け殻の方だったのだ。 「あはは! ガーニー、あんたすごい! すごいよ!」  褒められたのがわかったのか、足を動かすスピードが少し速くなる。 「あんたも、頑張ったんだね」  脱皮は、命がけの成長だと、怜央が教えてくれたことがある。ガーニーは、その試練を乗り越えたのだ。  風雨が次第に強くなり、川面が白くけぶる。辺りを包み込む雨音に抗うように、私は叫ぶ。  思いっきり。  あの街に届くように。 「怜央に、会いたあああいっ!!」  雨を顔に受け、対岸を睨む。  この気持ちさえあれば、きっと未来を変えていける。  そうだよね、ガーニー。 (了)
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