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「どうです、お茶でも飲んでいきませんか?」
表に出たボクに、魚住が声をかけてきた。
目の前に、復元された東京駅の赤レンガ駅舎が鎮座している。東京の再開発が、一部地点で時代を遡上するのは、おもしろい傾向だ。隣を歩いている魚住の出立ちも、考えてみればレトロ趣味だ。早乙女が羽織っているのも、クラシカルなシャーベットカラーのコート。
翻ってボクの服装は、ファストファッションで固めたリーズナブルなもの。格差を感じてしまう。
ちぇ!
ボクは縁石に足を乗せ、革靴のヒモを結び直した。
3人で入ったのは、テラス席のあるコーヒー専門店。
「この店の豆は、深煎りで香ばしいんですよ。」
ボクは、どちらかというと紅茶党だ。でも、店の中に漂う香しい香りが、コーヒー通を誘うのは分かる。
「鎌田さんは、学生のうちに起業したんですって? 脇田に聞きましたよ。彼は高校の同窓生なんですよ。」
「そうでしたか。魚住さんは、今の仕事は……」
「ボクは、さんざん転職を繰り返して、コンサル業を始めたのは、2年前なんです。早乙女くんは、その時見つけたパートナーなんですよ。」
風が舞い、テラス席にケヤキの落ち葉が迷い込んでくる。その落ち葉を、早乙女がヒールの爪先で押さえ込んだ。ボクは、つい屈みこんで、その葉を拾い上げてしまった。
早乙女は顔を斜めに傾げ、恥ずかしそうに笑う。
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