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事務所に現れた早乙女を見て、ボクは驚いた。国土リゾートで会った時と、まるっきり雰囲気が違うのだ。ボクと同じようなファストファッションで身を固め、ジーンズにムートンブーツをはいている。
「早乙女さん……、ですよね?」
ボクの問いかけに、まるで女学生のようにコロコロと笑う。
「普段は、こんな感じなんですよ。無理してあんな格好をしていたから、肩が凝っちゃって!」
戸惑うボクを横目に、早乙女はカバンからタブレットを取り出し、早速、仕事に取りかかる。今回の計画の要点をまとめてきたというのだ。
「わたしの調べた範囲では、碧島の地権に不安なところがあるんです。この高条件で、十年も借り手がついていないことが不思議だったんです。もちろん、法的には問題ないんですが、どうも、権利を主張する元地権者が複数いるみたいで……。それも筋の悪い……」
知らなかった情報だ。不動産屋は、そんな話は一言も言っていなかった。
「逆に、粟島の方には、問題点が見つかりませんでした。漁協や市役所に問い合わせても、協力的な回答ばかりなんです。粟島をメインに、国土リゾートさんと話をすすめたほうが良さそうですね。」
去年、粟島に現地調査に行った時にも、地元の対応に好感を持った。リスクが見つからないのは、ボクらと一緒だ。
しかし、この短期間で見事に要点を突いている。早乙女は、想像以上に有能な女性で、じゅうぶん戦力になりそうだ。
「この部屋は静かで落ち着くな……。うちからも近いし、ここに転職しちゃおうかな……」
早乙女が、突飛なことを言い出した。
「いやっ、それはちょっと!」
「やだ、冗談ですよ!」
早乙女は、ボクの肩を人差し指でつつく。それにしても、明るい声で、よく笑う女性だ。
やばい、もろボクのタイプだ……
ブッ……
早乙女のタブレットの電源が、いきなり落ちた。
「変ね?」
早乙女は、しばらくタブレットの液晶画面を触っていたが、諦めて再起動をかけた。
和久井の仕業か? ボクは、恐る恐る部屋の中を見回した。とくにそれ以上、変わったことは起こらない。
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