4 ハイエナ

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「それで、もう少し計画を精査したいんです。そちらでまとめた資料のコピーを、1部いただいて帰りたいんですけど……」  今までの資料は、和久井の控えが、まるまる余っている。秘密にしたいテクニカルな部分もあるが、情報を共有しなければ、仕事がスムーズに運ばない。ボクは、和久井のファイルを早乙女に渡すことに決めた。 『大丈夫か?』  耳の奥で、和久井が囁く。 「でも、必要だろ?」 「えっ?」  早乙女が、小首を傾げた。 「いやいや、大切なファイルだから、いろいろあって……」  要領を得ないボクの答えに、早乙女は、不思議そうに瞬きを繰り返している。 「要するに、大切なファイルなんですね? 大事に扱わせていただきますから……」  早乙女は、ファイルを受け取り、ぱらぱらとページをめくった。気になるところがあると手をとめ、何かブツブツと呟いている。 「それじゃあ、しばらくお預かりしますね……」  黒いショルダーバッグのファスナーを開け、タブレットと一緒に、一番奥のポケットに仕舞い込んだ。 「ところで鎌田さん、エスニックは好き?」  早乙女の口調が、突然打ち解ける。 「エスニックって、食べ物のこと?」 「そう、駅前のタイ料理屋に行ったことある? すごく美味しいのよ!」 「タイ料理は好きだけど、意外と地元の店は行かないんだよね……」  早乙女は上着の袖を引き上げ、時間を見た。 「いま4時だから、もうひと仕事終わらせて……。3時間後に改札のところで待ってるから、おごってくださいね!」  早乙女は、またコロコロと笑った。余計な妄想が広がっていく。いろいろと楽しい仕事になりそうだ。  ところが、ボクが早乙女に違和感を感じるまで、それほど時間はかからなかった。  まず、国土リゾートの脇田に連絡がつかなくなった。メールを送っても返信がない。電話をしても、いつも外出中だ。そんな状態が3日間も続いた。さすがに不安になってくる。  早乙女に連絡を入れると、気にし過ぎだと言って、コロコロと笑う。魚住が、今晩、脇田に会うはずだから、言付けておくと言って電話を切られた。  そして、ようやく脇田から返信のメールが届いたのは、翌日のことだった。
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