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レゾンデートル 鎌田 様
大変お世話になっております。
無人島アミューズメントパークの件、連絡事項があります。
このたび、事業契約の一切を、
魚住コンサルティングに一任することが決まりました。
鎌田様には、様々なご助言と尽力をいただき、大変感謝しております。
もしこの案件に、引き続き関わっていただけるようでしたら、
ぜひとも魚住さんに、ご連絡いただければと存じます。
今回は残念なことになりましたが、引き続き、よろしくお願いします。
株式会社 国土リゾート 脇田
あっさりしたものだ。こんな背信行為があるだろうか。企画をまるごと、名も実も、魚住に奪われてしまったのだ。
この結果を甘んじて受け入れるほど、ボクはお人好しじゃない。しかし、魚住の事務所や携帯、早乙女の携帯に連絡しても、呼び出し音が鳴るだけだ。
『おまえが、鼻の下を伸ばしてるからだよ……』
和久井の言う通りだ。申し開きのしようがない。
『おまえら、タイ料理屋のあと、どこに行ったんだよ!』
和久井は、すべてお見通しだ。
「まさか、ホテルまで……」
『そんな野暮なことはしないよ。ついていったのは、入口までだ。でも、その結果が、この体たらくだろ……』
和久井の目玉が、怪しく光っている。下手をすると、呪い殺されんばかりの迫力だ。
名刺で確認すると、魚住コンサルティングのオフィスは表参道にある。こうなったら直接乗り込んで、契約を奪い返すしかない。
表参道駅から地階に上がる。夕方の5時だというのに、陽はすっかり暮れていた。
明日から、もう師走だ。500メートルにも及ぶ欅並木が、クリスマスイルミネーションで輝いている。しかし、シャンパンゴールドのLEDで煙る夜景に包まれても、ボクの気分は沈んだままだった。
ボクは、早乙女との逢瀬を思い出してた。あんなに乱れていた姿態は、すべて演技だったというのか……。何年経っても、ボクは同じ失敗を繰り返す。
「いやー鎌田さん、待ってたんですよ! ボクの方でも何でこんなことになったのか……。本当に、申し訳ないことになりました……」
表通りから一本裏に入った古いマンションに、魚住コンサルティングのオフィスはあった。
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