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こんな惨めな気分になったのは、いつ以来だろう。浮気の現場を江利子に見られた時だって、開き直る元気はあった。
シャンパンゴールドのイルミネーションは、さらに輝きを増している。逆にボクの存在は、どんどん萎縮していった。
ボクの横を、若いアベックや学生の集団が、何組もすれ違っていく。今日から始まった光のショーを楽しんでいるのだ。
ボクは裏腹に、背中を丸めたまま、地下に潜っていった。
翌々日、脇田がボクの事務所に現れた。
「鎌田くん、申し訳なかった……」
扉の前で、菓子折りを持ったまま、深々と頭を下げている。
「脇田さん、どうしたんですか?」
脇田から電話が入ったのは、つい数分前だ。たぶん、マンションの前からかけたのだろう。ボクが留守で、空振りになる可能性だって、十分にあったはずだ。ずいぶん性急な脇田の対応に、ボクは驚かされた。
「どうぞ頭を上げて、中にお入りください……」
「で、いろいろあったけど、また一緒に仕事をしてくれるよね……」
謝罪の儀式を終えた脇田は、意外とぞんざいな口振りだ。
「でも、魚住さんとは組みたくありませんよ!」
脇田は、一拍置いてから、ボクの肩に手を掛けてきた。
「いやぁ、あいつとは、もう仕事はしないから! というか、魚住の方から断ってきたんだよな……」
これは意外な展開だ。
「それは、どういうことでしょうか?」
「オレにも分からないんだけど、あんなに無責任なヤツだとは思ってなかったんだよ。あんまり詳しくは言わないけど、キミの悪い噂をいくつも聞かされてね……。すっかり、それを信じちゃったんだよ……」
「それで、あんなメールを……」
「本当にすまない。突然、『鎌田くんの噂は全部嘘でした!』なんて言われてもね……。それっきり、まったく連絡がつかないんだよ。オフィスも、蛻の殻だし……」
それから脇田は、さんざん魚住の悪口を並べ立てた。『考えてみれば、昔からいい加減なヤツだった』とか、『格好ばかり気にして、中身が無い』とか……。一通り言い終えると気分が晴れたのか、手土産を渡すのも忘れ、意気揚々と帰っていった。
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