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結局従来通り、アミューズメントパーク計画は、『国土リゾート』と『レゾンデートル』の間で進むことになった。間違いなく、和久井が脅かしたに決まっている。
『オレは何にもしてないよ、フーフーフー……』
脇田が帰ったあと、壁から抜け出してきた和久井が笑った。でも頬と唇の肉がそげ落ちてしまい、表情が読みとりづらい。
『この顔を見せただけだよ……』
それだけで十分だ。
『声も上げられずに、2人とも腰を抜かしちゃって、失礼だよな……。お化け屋敷じゃないっつーの!』
開き直っているのか、和久井は少し自虐的だ。
「でも助かった、ありがとう……」
本当は、自分の力で仕事を取り戻したかった。というより、ボクが信頼されていれば、そもそもこんな状況になっていなかったはずだ。改めて、和久井の存在の大きさを、見せつけられる結果となった。
後日、早乙女から宅配便が届いた。預けたままだった和久井のファイルと、早乙女がまとめた調査書が入っていた。
『熊本の地元業者を選定するとき、準大手の浮島建設は避けてください。元ヤクザの社長が、半ぐれを集めて作ったような会社で、多くのトラブルを抱えているようです……』
いろいろ言いたいことはあるが、仕事に対する真摯な態度は、本物かもしれない。
調査書の最後に、手書きのメモが記してあった。
『信じてもらえないとは思うけど、好きじゃない男とは寝ないから……』
ボクは、宅配便の伝票を確認した。差し出し住所は、空き家になった表参道のままだ。携帯の契約も、すでに解除されたようで繋がらない。
それにしても、見事に心がかき乱される。やっぱりボクは、同じ失敗を繰り返しそうだ。
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