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事故は、ちょうど1週間前。真夜中、和久井が突然『ラーメンを食べたい』と、言い出したそうだ。そこで2人は、自転車で国道沿いのラーメン店に向かう。その走行中に、後ろから来たトラックに跳ねられたのだ。
路面にハンドルをとられたのか、突然トラックの前に横転。運悪く頭部がタイヤとバンパーの間に挟まれ、激しくアスファルトに擦りつけられた。その一部始終を、江利子が後ろの自転車から見ていたのだ。
金属カッターでバンパーを切断、体が引きずり出され、救急病院に搬送されたが、もちろん脳挫傷で即死。遺体の情況が情況だけに、弔問客に顔を拝んでもらうこともできなかった。
ボクは、和久井の両親とも顔見知りだった。和久井家の親族席の末席に招かれ、友人代表として和久井を見送ることになった。
それにしても妙だ。どうも落ち着かない。弔問客が多く、読経の間中、斎場がざわついているのは事実だった。
「はじめまして。このたびは……。私はこういうものでして……」
魚住コンサルティング代表
魚住正義
告別式だというのに、名刺を配っている強者もいる。
でも気にかかったのは、そんなことではない。ずっと誰かに見られているような気がするのだ。
和久井の棺に花を手向ける。顔に被せた白布を外すことができない。江利子は気丈にしていたが、列席者への挨拶の途中、言葉に詰まってしまった。骨上げまで残ったのは、親族を中心に30名ほどだった。
「最初に、私と拾ってくれる?」
火葬された和久井が現れる直前、江利子がボクの耳元で囁いた。いったい何を言っているのか……。両親よりも先に骨上げするなんて、いくら何でも常識が無いし、親戚にも顔向けできない。
「あら、望月さんのところは、そんなやり方なのかしら……。鎌田くん、悪いんだけど、江利子さんの気の済むようにしてあげて……」
和久井の母親が、ボクの背中を押して、先頭に立たせた。望月は江利子の旧姓、妙にトゲのある言い方だ。この場所で揉めるのは御法度だが、如何ともしがたい。仕方なく江利子の隣に並ぶと、明らかに後ろの空気がざわついていた。
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