3 プレゼンテーション

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3 プレゼンテーション

 国土リゾートは、丸の内に本社オフィスを構える、中堅のリゾート開発会社だ。近年の業績の伸びで、今年の4月からフロアが拡充されていた。 『レゾンデートル』が国土リゾートと組むのは、これで3度目だ。営業部長脇田の知己を得て、とうとう億単位の事業をまかされることになっていた。  ただ、新たな懸案も生まれた。今回の事業に、脇田の友人、魚住を絡ませることになったのだ。  ボクが、これほどの規模の仕事を手がけるのは初めてのことだ。それなのに、初対面の魚住をパートナーにしなければならない。  魚住……。どこかで見た顔だ。 「和久井さんの告別式の時に……」  そうだ、和久井の告別式で、名刺を配っていた強者だ。歳は50歳前後、髪をキレイに切りそろえ、口ひげを蓄えている。黒縁のロイド眼鏡に、たぶんオーダーメイドのスーツ。お洒落で羽振りが良さそうな男だ。 「この娘は、わたしの秘書です。」 「早乙女です。よろしくお願いします……」  秘書の早乙女は、ボクと同年代の女性、なかなかの美人だ。いかにも『仕事ができます』と、顔に書いてあるタイプだが、取っ付きにくい感じでもない。  しかし、服装に問題がある。スリットが深めに入ったタイトスカートをはき、やたらと足を組み替えている。そのたびに、会議室に妙な緊張感が生まれていたのだ。  足の組み替えは、多分わざとだ。目が合うたびに、ニヤっと笑う。早乙女の方を見ないのも変だが、あからさまに凝視するわけにもいかない。なかなか難儀な作業だ。特に意見を述べることもなく、魚住が何のために連れてきたのか真意を測りかねていた。  まあそれはともかく、いよいよプレゼンテーションだ。パソコンとプロジェクターをつなぎ、照明を落とす。スクリーンに投影される2つの島の動画は、和久井が生前に編集したものだ。場面が変わるごとに、2人で行ったロケハンのことが思い出される。  でも、そんな感傷に浸っている場合ではない。プレゼンテーションの出来不出来に、このプロジェクトの成否がかかっているのだ。  和久井の突出した企画力に比すると色褪せるが、ボクが全くの無能というわけではない。自慢できるかどうかは置いておくとして、ボクには人たらしの才能がある。いざという時の度胸があり、はったりがきく。だから、2人で作ったこの会社が、短期間でここまで発展できたのだ。
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