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昨日の昼ほど、私はコーヒーを一口すすって顔をしかめ、残りを洗面台へすっかり流してしまってから、外へ出た。 風の強い日だった。 アスファルトは、昨日から今日の早朝にかけて降っていた雨の様子を留めていて、だが、あまり寒くはなかった。 カツ、カツ、と足音が響く。 もうちょっと大人しい靴底のシューズだった方が良かったかもしれない。 でも、今更引き返す気にもなれない。 髪は絶えず後ろへなびく。 しかし、首から下はすっぽりコートに覆われているから平気だった。 顔面以外は、全部水面下にあるような落ち着きようである。 途中、自動販売機で足を止めた。 ミネラルウォーターを食い入るように見つめる。 ……さっきの、あの、コーヒーは苦すぎた。 が、金は持ち合わせていないので、口をすすぐのは帰ってからにしよう。 街の、ビルとビルの間を通る。 車が大軍となって向こうからもこっちからも走っている。 信号機の色が変わりかけている時には、奴らの更新スピードは尚のこと速くなる。 そして排気ガスが臭い。 私はコートの飛び出た襟に鼻を入れるようにして足早に横断歩道を渡りきり、もっと小さな通りへと急ぐ。 誰かが外で電話をしている。 平日のこの時間のことだから、恐らくは仕事関係だろう。 いや、それとも、わざわざ外で話しているくらいだから、休憩時間でも取っているんだろうか。 まぁ、それは分からない。 そこを過ぎ去って間もなく、遠くの方に、犬を見かけた。 黒ずんだ、みすぼらしい色をしていた。 その犬は、耳をだらりと垂らしていて、絶えず周囲を見渡しながら、ビクビク歩いていた。 4本の足が空中で軽やかに踊っているかのようなせわしなさ。 かと言って、走っているわけでもない。 そのまま突っ切って、犬は建物の陰に消えていった。 私はそれを見届けると、自分でさえも気づけないようなため息を漏らして、方向転換をし、自宅へ戻ることにした。
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