40人が本棚に入れています
本棚に追加
-山奥 ロウの庵-
「したが。日毎、山菜摘みと茸狩りに来ねばならぬほど、困窮しているのか?」
ロウは思わず、童にそう問うた。何かしら、思うところがあったわけではない。もしも、童が困窮していたとしても、隠遁生活を営んでいるロウに、してやれることはないし、してやる筋合いもないけれど………。
何となく、放っておけないのだ。生来、ロウは種族は違っても、雛には優しい性質なのだ。己が雛だった頃。白狐が己を助けてくれたように、己も誰かを助けたい、と思うこともなかったわけではなかったし。
とは言え。人間と関わったことはなかった。この童相手が、産まれて初めてである。
ロウは、同族さえおらぬから。物心ついた時には、あの鎮守の社守りである白狐に育てられていた。
自分の出生も、同族のこともよくは知らぬ。白狐は博識だったが、ロウの同族のことは、然して知らぬようであった。
辛うじて『曾ての天津神の末裔』と言うことだけ、教えてくれたけれど。それ以上のことは知らぬのか。それとも、教えることも憚られることだったのか。それは定かではなかったけれど…………。
先日の転んだ際の傷は治りかけていたようだったが、むき出しの足や手には、細かい傷がいくつも出来ている。
恐らく、木の枝や草で切ってしまったのだろう。血が出るほどではないが。放っておいて化膿でもしたら、目も当てられない。
最初のコメントを投稿しよう!