― 行き倒れの二人 ―

4/25
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 などと、沖田は尚も納得いかないように、とんでもないことを言い出した。人道的に問題ありだ。 「……俺は別に、助ける気はなかった……」  『ポツリッ』と呟くように言ったのは黒髪の男─『斎藤(さいとう) (はじめ)』─である。しかし、既に運んでしまった手前、強くは反論出来なかった。 -妙な沈黙に満ちた広間に二人の人物が入ってきた。今まで、あの男女の様子を見ていた『山南(やまなみ) 敬助(けいすけ)』と『井上(いのうえ) 源三郎(げんざぶろう)』だ。 「二人とも、気が付きましたよ。命に別状はないようです。………ただ………」  そこまで言った山南は気遣わしげな表情をして眉を寄せ、言い淀んだ。すると、それを察したらしい井上が、やはり気遣わしげ表情で続きを話した。 「女子(おなご)の方は言葉が話せない………と言うか、声が出せなくなってしまったようなんだよ。………よほど、酷い目にでも遭ったのかねぇ。」 「っ!………そう、か。あの子………喋れない、のか。」  『二人を助ける』と決めたのは自分であるため、二人のことを一番気に掛けていた永倉は、寂しそうにそう呟いた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!