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童の傍に置かれた笊には山菜が積まれ、籠には茸が入っていた。山菜摘みと茸狩りに来て、夢中になっている内に、道にでも迷ったのだろう。
普段のロウであれば、絶対に関わらなかったはずだ。………久方ぶりの『血の匂い』さえしなければ………。
童が泣いていたのは、道に迷ったからではなかった。樹の根にでも足を取られたのか。
転んだらしい童の足には傷があり、血が出ていた。流れるほどの出血ではないが、幼い童である為、それ相応の痛みがあるのだろう。
ロウは現在でこそ零落し、妖になってはいるものの、嘗ての『天津神』の由緒正しい血統を継承していた。
人の姿は仮初めのもので、真実は獣の姿のカミだ。如何に妖に堕ちようとも、人間を喰らったりすることは一度としてなかった。
妖となった以上、人間を喰らえば妖力は上昇する。反対に、喰らわねば妖力は落ちる。
産まれてより、人間を喰ったことのないロウは、初めて『飢餓』を覚えた。天津神の血を継ごうとも、『本能』には逆らえない。
-引キ裂キ、肉ヲ喰ライ、生キ血ヲ啜リタイ-
抗いがたい『本能』が叫びだす。しかし、強靭なる精神力を有していたロウは、無理矢理、その『本能』を押さえ込み……………
「泣くでない、童。近くに私の庵がある。そこで手当てをしてやろう。」
突然現れたロウに驚き、痛みがあるのだろう童の涙が止まった。見たところ、三つ~五つくらいであろう。
手当てを終えたロウは、人里近くまで、童を送り、『自分のことは誰にも話してはいけない』と言いくるめて置いた。
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