- 司狼丸の過去 -

4/12
前へ
/44ページ
次へ
 怪我を負い、泣く童を放っておけなかったとは言え、人間とは極力関わりたくない。  育ての親の老白狐は、(やしろ)にて鎮守を任じられた天狐であったが、ロウは『狐』ではない。  嘗ては、天津神であったとは言え、それは何代も前の祖先のこと。先祖が妖に堕ちたが故、ロウ自身は産まれた時から妖だったのだ。  如何に天津神の血脈を継いでいようと、天狐のように社も持たぬし、誰かに奉られているわけでもない。今のロウは、ただの妖に過ぎぬのだ。  そう………恐らく。本来の獣の姿は、人間(ヒト)に忌み嫌われ、恐れられる。  農耕神(うかのみたま)の眷属であった稲荷神………あの老白狐とも違う。人間(ヒト)に寄り添い、暮らす獣ではないのだ。かと言って、山野に暮らす野生の獣でもない。     -『異端』なのだ、紛れもなく-  しかし。本来なら不可抗力であった『人間(ヒト)との関わり』は、それで終わっていたはずだった。………あの童が、ロウの住む森をまた訪れるまでは………。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加