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「あたちには、よくわからないの………」
童は『しゅん』と悄気た表情をして俯く。ロウは童を見つめながら、思案した。不治の病(労咳など)でさえなければ、大抵の病に効く薬は精製出来る。
この庵に落ち着いてから精製しておいた薬が残っていたはずだ。童の手当てを終えたロウは、庵の棚から小さな陶器の器を手に取り、再び童の前に座り、器の蓋を開けて見せた。中には、幾つかの丸薬が入っていた。
「童よ。お前の姉とやらに、この薬を飲ませると良い。次に来る時に姉の症状をわかるだけ、説明出来るようにしておけ。」
今は急場凌ぎの薬しかないが、症状がわかれば、適した(効果的)な薬を作れる。姉とやらの病さえ良くなれば、童がここに来ずともよくなるだろう。
そうすれば。ロウも元の穏やかで静かな陰遁生活に戻れる、と言うものだ。放っておけぬとは言え、ロウは人間を好ましく思ってはいない。
共に暮らしていた老白狐がそうだったからか、ロウ自身の性故か。それはわからなかったけれど………。
かつて、人間の娘を愛し、それ故に堕ちたりし天津神。それがロウの先祖である。
その先祖が何故、人間の娘などを愛したりしたのか?ロウにはわからなかった。まぁ、わかりたいとも思わぬが。
己は俗世と隔絶された、この庵での隠遁生活に不満はない。満足していると言っても、過言ではないし、孤独にも慣れた。
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