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「え? あ、お、覚えてる。なんだよ、謝らせんなよ」
調子を取り戻した兄貴が、ティッシュの箱で俺を殴る。
「浮気するたびに犯すからな」
それは少々困る。でも兄貴が大学に行っている間、俺が誰と寝ようがわかりようがない。そう、わかるはずがない。意志の強さと兄貴への愛の大きさがものを言うわけだが、俺は我慢と努力が苦手だ。嫌い、ではない。苦手なだけだ。多分。
「浮気したってバレない、って思ってるな」
「思ってないよ」
さらりと嘘をつく。兄貴は怒った顔で俺を睨んでいたが、やがて表情を変えた。意味ありげに微笑んで「お互い様だけどな」と呟いた。
「兄貴」
「いいよ、わかった」
掴みかかろうとする俺のひたいを拳で軽く殴り、立ち上がる。
「さっきのあの子のことは体だけだってわかってるよ。お前が好きなのは俺だもんな。俺も同じ。体は別の奴に委ねても、気持ちはお前だけ。他の奴に抱かれても、俺はお前だけが好きだよ」
「そんなこと」
俺が喜ぶとでも思っているのか。いや、喜ばないと知っていて挑発しているだけだ。怒りを吐き出して言った。
「やっぱいるんじゃんか、セフレ」
「いるなんて言ってない。いないとも言ってないけど」
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