9話

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 なんの罪もない自販機に軽く蹴りを入れてから、小銭を投入した。ボタンを押して、身を屈め、コーラを取り出す。冷えていて、気持ちいい。首筋に押し当ててからプルトップを開けた。 「こんにちは」  後ろから声がかかり、振り返る。背の高い厳つい男が立っていた。オレンジ色の「9」と書かれたビブスをつけている。短く刈り込んだ頭から汗が流れている。サッカーのユニフォームを着ているからサッカー部だろうが、ラグビー部と言われても疑わない。 「道流の弟だって?」  兄貴を名前で呼ばれて、咄嗟にムッとした顔をしてしまった。男が高い位置から俺を見下ろしてくる。 「あいつよりでかいな。つか、全然似てねえな」 「はあ」  練習を抜け出して、俺を追ってきたのだろうか。何か用ですか、と訊くわけにもいかず、曖昧にうなずいてコーラを煽る。 「お前、名前は?」 「秀明です」 「ひで……、ああ、ヒデってお前? 弟だったの? マジか、そういうことか」  男は何かを納得している。意味がわからない。 「なんすか」  なんだか面倒だった。苦手なタイプだ。挑戦的な目で見上げると、男がユニフォームで汗をぬぐい、声を上げて快活に笑った。それから俺の目線に合わせるようにして身をかがめ、言った。 「あいつ、ヤッてる最中にお前の名前、呼んだことあるよ」 「……は?」 「ヒデ、ヒデって」     
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