1話

2/12
前へ
/126ページ
次へ
 兄貴はち、と舌打ちをして「二階行けよ」と言った。 「下にしかクーラーねえからここにいるんだろ。どうでもいいけど早く閉めろ。アチィんだよ」  兄貴はぶつぶつ言いながらドアを閉めた。ちら、とそっちを見て、初めて兄貴の背後にもう一人いることに気づいた。兄貴の背中からひょこっと顔を出して、男が言った。細長い奴だ。 「こんにちは、弟?」  兄貴の友達らしい。初めて見る顔だ。俺は肯定も否定もせずに画面に視線を戻す。 「ミッチーに似てるね」  ミッチー! なんて馬鹿げたあだ名で呼ばせてるんだ。俺はこれみよがしに吹き出した。が、二人とも俺を無視した。 「ええ? 似てないだろ、よく見ろよ。俺のがいい男じゃん」 「うん、まあ。ミッチーのほうが男らしいかな」  そうだろ、と兄貴は嬉しそうに答えた。兄貴は何故か、どんなことでも俺より上じゃないと気がすまない。 「そこ座ってろ。アイス食うだろ?」 「うん」  細長い男が座布団の上にちょこん、と行儀よく座った。 「弟君、名前は?」 「秀明(ひであき)」 「じゃあヒデちゃんだ。僕は貴文(たかふみ)っていうんだ。よろしくね」 「はあ?」  画面から目を離さずに馬鹿にした声を出した。     
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1501人が本棚に入れています
本棚に追加