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なんでそんなことをわざわざ俺に報告するんだよ。違和感があった。箸の動きを止めて、少し首を傾げた。兄貴は笑った。
「心配してくれただろ、ヒデ」
「……え、は?」
「さっき、うちの学校来てた。俺のこと気にして見に来たんだろ」
全身の血の気が音を立てて引いた。それからすぐに、首から上が急激に熱を帯びる。
「すげえ速さで走り去ってく自転車、目立ってたぞ」
頭を抱えた。恥ずかしくて死にそうだ。兄貴本人に見られていようとは。
「う、くそ……死にてえ」
呻く俺に「はは」と兄貴が笑う。
「あれでどうでもよくなったんだ、貴文のこと。朝になってもずるずる引きずって、お前のことむかついてたんだけど」
「むかついてたって……。何度も言うけど俺は悪くないからな」
「わかってるって。お前もある意味被害者だもんな」
「ある意味ってなんだよ。ばっちり被害者だぜ、俺は」
うん、とあいづちを打って、俺の隣に腰かけた。目の前に置かれた皿には、綺麗に八等分されたトマトが載っていた。食え、ということなのだろう。自分は洗っただけのトマトを、丸のまま齧っている。
熟れた、真っ赤なトマト。血管が浮いた兄貴の手首を、トマトの汁が伝う。兄貴は無頓着だ。どこか一点を見つめたまま、トマトを貪っている。
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