3話

10/11
1494人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
 なんでそんなことをわざわざ俺に報告するんだよ。違和感があった。箸の動きを止めて、少し首を傾げた。兄貴は笑った。 「心配してくれただろ、ヒデ」 「……え、は?」 「さっき、うちの学校来てた。俺のこと気にして見に来たんだろ」  全身の血の気が音を立てて引いた。それからすぐに、首から上が急激に熱を帯びる。 「すげえ速さで走り去ってく自転車、目立ってたぞ」  頭を抱えた。恥ずかしくて死にそうだ。兄貴本人に見られていようとは。 「う、くそ……死にてえ」  呻く俺に「はは」と兄貴が笑う。 「あれでどうでもよくなったんだ、貴文のこと。朝になってもずるずる引きずって、お前のことむかついてたんだけど」 「むかついてたって……。何度も言うけど俺は悪くないからな」 「わかってるって。お前もある意味被害者だもんな」 「ある意味ってなんだよ。ばっちり被害者だぜ、俺は」  うん、とあいづちを打って、俺の隣に腰かけた。目の前に置かれた皿には、綺麗に八等分されたトマトが載っていた。食え、ということなのだろう。自分は洗っただけのトマトを、丸のまま齧っている。  熟れた、真っ赤なトマト。血管が浮いた兄貴の手首を、トマトの汁が伝う。兄貴は無頓着だ。どこか一点を見つめたまま、トマトを貪っている。     
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!