3話

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 果汁が伝う。薄い赤色をした水分が、肘に向かって流れていく。  濡れた手首を掴んだ。引き寄せて、舌を這わせた。丁寧に、舐め上げる。 「あ……」  兄貴が声を上げた。その瞬間、手からトマトが零れた。ぐちゃ、とトマトの残骸がテーブルに落下する。  兄貴が俺の手を振り払い、椅子を跳ね飛ばして台所から飛び出していった。  口の中が甘酸っぱい。この先トマトを食べるたびに、兄貴を連想するだろう。  俺は湯気の消えたカップラーメンを、長い間見つめ続けていた。
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